涙といえば、精神的要素が強く、特に女性の特権のごとく扱われています。ことわざも東西を問わず多いので耳にしたことがある人も多いはずです。
「女の涙と犬の跛行はウソ」
これは、不利な立場に立たされたとき、女はウソ涙、犬は片足をひきずってごまかす、という意味です。
「女にも武器あり。日く涙これなり」
「女子の涙は勝利なり、男子の涙は降服なり」
「鬼の目にも涙」冷酷な人間でも人情にうたれることがある。
「涙もろいは老いの癖」「あけの涙」涙が出つくしてしまい、もう一滴の涙も出ないときに出る血の涙。女の涙を表現。
「一掬の涙」ほんのわずかの涙。あるいは非常にたくさん流す涙のときにも。
「悲しさが多すぎると笑いを呼び、喜びが多すぎても涙を呼ぶ」
「女は自分を笑わせた男しかたいていは思い出さない、男は自分を泣かせた女しか思い出さない」
「女は泣くことを錬りにする、盗人は嘘を頼りにする」
「笑いと泣きの間の橋は長くない、ごく短いことがしばしばである」
「笑う女を信用するな、泣く男を信用するな」
このように、思いつくままに挙げても涙に関するものはいくらでも出てきそうです。いかに涙が人間をきりきり舞いさせるかがわかります。
では、医学的に涙を分析してみるといかに。「涙もろい人は情が深い」とよく言いますが、涙と情の深さに相関関係はあるのでしょうか?
涙は、悲しいときやうれしいときだけに出るわけではありません。眼球は常に潤すことが必要で、たえず涙腺から涙が出ているものです。
涙腺は目尻に近い上まぶたの裏側にあり、小指の頭くらいの大きさです。涙腺から分泌された涙は、多数の排出管により瞳の上部あたり( 上結膜円蓋 と呼ばれる) に出てきます。これが、まぶたの運動と重力によって、眼球の表面を下方へ流れていくわけです。
涙には重要な役割があります。まず、眼球の乾燥を防ぐこと。同時に、目の汚れを清め、目の運動を円滑にしてくれます。また、角膜( 黒目) は血管を持たないために栄養分の補給ができないのですが、涙に含まれる栄養が上から下へ流れる間に、角膜に与えられます。
涙の98パーセントは水分で、弱アルカリ性の液体です。アルブミン、グロプリンなどのたんぱく質や2パーセント程度の塩分も含んでいます。それに リゾチーム という殺菌作用のある酵素も含んでおり、消毒の役目も果たしています。
ところで、涙腺の神経支配についてですが、化学的刺激や物理的刺激による反射性の涙の分泌は、顔面神経にあります。玉ねぎや煙が原因になるときの涙。目にゴミが入ったときなどに出る涙や精神的な涙の分泌は、自律神経の交感神経によって支配されています。
自律神経失調症になると、ちょっとしたことで涙が止まらなくなる、という症状が出る人もいます。
情が深いから涙もろい。涙もろいから情が深い。医学的にみると、どうもあやしい理論といえるかもしれません。男性と女性との涙腺の大きさにしても、女性の方が大きいという確かなデータはありません。しかし、女性の方が涙を流す頻度が高いことは事実です。そして、その涙にだまされてしまった男性が多いのでしょう。
多くの名言、ことわざが警告しているように、涙にごまかされないようにしたいものです。ですが、女性の涙はやっぱり最大の武器にまちがいはなさそうです。それに「血も涙もない」人間にはなりたくないのは皆、同じですね。